20190523
久しぶりに会った元恋人は相変わらずキスが下手だった。
深夜0時に酔っぱらってカラオケに行こうという時点ですでに下心丸出しみたいなものだけど、それに「いいよ」と答えてしまうのだから結局人のことは何も言えない。
ハイボールを飲みながら徐々に距離を詰めてくる感じが童貞臭いと思いながら見ないフリをしていた。アップテンポを歌いながら肩に手を回してくる感じが安っぽすぎて僕はこんな男が好きだったのかと過去の自分にびっくりした。恋とはかくも盲目なものか。
歯、え、てか、歯、ぶつかってるんですけど。どんだけなの。どんだけ下手なの。
こういう場合、抵抗しないことで相手を勘違いさせてしまうということは分かっているのだけど、抵抗する体力を使うのも面倒で結局はその場の流れに身を任せてしまう。僕が悪いのでしょうか。じゃあどうすりゃいいんだ。
部屋の終了時間にスッと席を立って出ようとすると「帰らないで!」と通せんぼする姿があまりにも滑稽で笑いを通り越して泣きたくなった。全体的に脂肪がついて、かつて好きだったキュートな顔はもうどこにもない。
「どいて。」
僕はたいへん非力だが、一言で元恋人を動かすぐらいの力はまだあるらしい。元恋人を一人部屋に残してさっさとビルを出て、目の前でタクシーを捕まえて帰った。その日初めての出費がタクシー代だった。無性に煙草が吸いたかった。
朝、目が覚めると「昨日の記憶ないんだけど~」から始まるLINEが来ていた。都合がいい。酔っぱらった時だけ電話してきて、酒の力で欲望を満たさんとし、次の日にはなかったことにしようとする。僕のところにそんなのばっかり集まってくるのは僕が拒むことを怠けているからなんだろうか。
「怒ってる?」というLINEに僕は短く返事する。
「別に。慣れてるからいいよ。」